平成18年12月01日

荒川区議会議長  鳥飼秀夫様

                         荒川SOS!学校給食を考える会
  代表  市村由喜子

荒川区内小中学校における学校給食調理業務民間委託の検証と
   平成19年度保育園給食調理業務民間委託の延期に関する陳情書    

 

趣旨

 荒川区は、区内小中学校における学校給食調理業務民間委託を検証し、その結果を区民と 保育園保護者に説明してください。その検証が実施されるまで、平成19年度保育園給食 調理業務の民間委託実施拡大を延期してください。

理由

(1)そもそも、区内小中学校給食の民間委託は、より豊かな教育をめざす教育論議の場ではなく、平成6年「財政の効率化」を図ろうとする行財政改革論議の場「荒川区 行財政懇談会」で決定されたのでした。以来12年を経て、現在では教育活動としての食育が重要視されるようになりました。したがって、給食のあり方を行財政改革の側面からでだけではなく食育の観点からも検討し、その上で現状の学校給食を 検証していただきたいのです。

(2)給食調理業務が民間委託された小中学校の給食では、諸問題が出始めています。これらの問題を放置しないためにも、検証をしていただきたいのです。同様の問題がすでに調理業務を民間委託した保育園でも出現しています。このような現状のまま委託をすすめては保護者や区民の不安は拡大するばかりです。        

(3)区は、保育園給食調理業務民間委託のメリットとして、「食育の推進」「アレルギ −対策」「土曜給食の充実」などを上げていました。これらは、委託しなければできないことでしょうか。現状では、委託しなくても3点については区営でも実現し始めています。したがって、このまま、上記に述べたような諸問題を抱えながら委託を進めるのではなく、むしろ、給食調理経験豊富な区営で最大限の努力を行っていただきたいのです。

  (詳細は、別紙を参照してください。)

理由についての詳細
                                   
(1)に関連して
  私は、平成6年に設置された「荒川区行財政懇談会」(以下行財懇とす)に区民委員として参加しました。
  行財懇に予定されていた諮問内容にたいし、追加として、「区立小中学校における給食調理業務の委託並びに非常勤の学校栄養職員の配置について」という案が、諮問されました。わずか4回の話し合いで区側の案を「答申」する結果になりました。当時、賛成反対の様々な意見があったにもかかわらず、民間委託推進の答申となったのです。その際、答申本文には、両論併記を求めましたが実現されなかったため、委員の意見を個別に答申の最後に掲載するよう要請しました。それには、「学校給食に期待されている事は、安易に民間委託をする事ではなく、直営で熟練した労働力を生かし行革の精神に沿う荒川区独自の給食システムを作ることです。」「今まで他区に先駆けて有機野菜、無農薬のバナナ利用をしてきた意識の高い調理員を活用する事が行革であると思います」(区民委員のKさん)といった貴重な意見が提出されました。私は、「給食事故責任の法的裏付け、委託料試算の中身など重要且つ基本的問題が全く不明確であると認識します」と慎重な審議の必要性を指摘しました。「現在の調理業務職員は、地元の子どもや食文化に詳しく伝統食の
良き担い手であり、子どもからも親しまれ、教育としての給食活動には欠かせない存在です」。そして、「これらの人と設備のより有効的な活用」を提案したのです。
  しかし、「将来的に毎年、3億8千万円の削減が図られ、これによって学校給食の充実をはじめ、他の区民サ−ビスを充実するための財源を生み出すことが可能になる」(答申報告より)として、学校給食の内容についての議論がないまま、行財懇での審議は終わってしまったのです。
                
(2)に関連して・・・区内小中学校給食調理業務民間委託における諸問題

1.調理員について

給食調理業務民間委託前
  調理員は、常に学校職員として「学校だより」に紹介されていました。子どもたちも給食の○さんと名前を呼んだりして親しんでいました。「作り手」の顔が見えることは、子どもにとって大事なことでした。調理員さんの話によれば、長年その学校に勤めていれ ば、子どもの様子もわかり、野菜の切り方、味付けの裁量も臨機応変に対応が可能になったということです。たとえば「夏の暑い日は、塩加減も多めにする」等々。また、私の記憶に印象深く残っていることは、運動会です。暑い日差しに運動場が照りつけ砂ぼこりもひどかったため、調理員さんたちが、運動会が終わるまで校庭に水撒きをしてくれていたことです。また雪の日には雪掻きをしてくれていました。調理だけではなく、職員として学校の様々な仕事を担い、またPTA行事を手伝う姿に感謝でした。

給食調理業務民間委託後    
  「学校だより」から調理員の姿は消えました。あるいは、掲載されてもその調理員が年度途中で移動していなくなったりなど「作り手」が見えなくなり、調理員が子どもたちと交流する場面はほとんど無くなりました。区は、当初、「従事する調理員が学校という教育の場での仕事をするという明確な意識を持ち、子どもたちとのふれあいも大事にする会社に委託します。」(H.7 あらかわ区報)と説明していました。しかし、民間委託は、パ−トだけでなく、チ−フ自身の移動が多いことがわかってきました。「1年半の間に27名の入れ替わりがあった」(栄養職員)という報告まであります。これでは、子どもとのふれあいや給食業務の技術の向上や蓄積はできません。

 
このような現状を区はどう受け止めているのでしょうか。

 平成18年9月4日の文教・子育て支援委員会において、「調理技術が民間委託したことによって向上したかどうか、また委託によってそこが減ったかどうか、正直なところ把握もしてございませんし、なかなか指標としては設定しづらいのではないかと考えているところでございます。」(青山学務課長)と答弁しています。区は、受託会社の調理員については「教育の場での仕事をするという明確な意識を持つ」ことを条件にし、また、そのような会社を選定することを区民に説明していながら、実際は、それを検証する意思がないということなのです。そして、調理技術については、調理業務の重要な部分でもあるにもかかわらず、「把握もしていない」とは、高額な委託料を支払っておきながら考えられないことです。つまり、「委託」は、荒川区では受託業者に丸投げ状態だということが鮮明になってきました。一方で、それでも給食活動が可能になっているのは、栄養職員の
負担によるものだということがわかってきました。
   
2.栄養職員について

栄養職員に、実態を聞いてみました。その一部を紹介します。

・業者選定の問題
  「実績のある」業者が選定されていない。 感染性胃腸炎などの流行への対応策を考えていない。衛生観念が無く意識も低い。 給食時間に間に合わない。(セレクト給食など) 分量や配食などミスが多い。学校給食経験者が会社側にいなく調理や指導ができない。失敗の文書報告もない。契約時にパ−トが全員調理業務未経験者で4人中3人が60歳以上。事故などの対応が遅い。

・社員やパ−トの問題
  「営利」のため人員を増やせない。人員補充がない。パ−ト賃金が安いため人が集まらない。委託契約金が低いからパ−ト賃金が上がらないという悪循環の中で、良い人材が確保できない。入れ替わりが多く安定しない。スキルアップが図りにくい。チ−フやサブチ−フが替わるたびに一からのスタ−トになる。しかも1年間で何人ものチ−フやサブチ−フが替わるので困る。

・給食の継続性と蓄積
   契約期間が3年で入札により業者が替わったため、一から教えなければならない。業者間の引き継ぎがなく、すべて栄養職員が教えることになる。  

 このような現状の中で、栄養職員が調理室に入り、調理等を手伝っています。これは、偽装請負に相当する法律違反です。直接調理員に指導してはいけないにもかかわらず、指導せざるを得なくなっている現状が浮かび上がってきました。法的整備がされていない状況で、法律違反を区が容認していることになります。
  「委託の場合、調理の打ち合わせに時間がかかる。区の職員であれば全員が同程度の能力があるので臨機応変な対応できる」という栄養職員の声は、まさに現場の声として今こそ真摯に受け止める必要があるのではないでしょうか。
  栄養職員による「調理の指示」を越えた調理場における「調理業務の指導」をしなければ、給食活動が成立しない実態が鮮明になってきたのです。また、栄養職員が受託会社や調理員にたいする指導に追われて本来の食育活動になかなか集中できないという問題も出てきました。
  常勤栄養職員は、横のつながりや研究活動も保障されていますが、非常勤栄養職員はどうでしょうか。1年ごとの契約で、前任者からの「引き継ぎ」など保障されていません。
  もちろん業者間の引き継ぎはないわけですから、その学校での給食活動は場合によっては、非常勤栄養士も受託業者も「初めて」といったことにもなりかねないわけです。
  また、常勤と非常勤が配置されている小中学校が固定化されているのにも問題があります。学校間の給食格差も免れない状況になってきました。給食格差を生み出すようなシステムを行政自身が作っているわけです。
 
3.受託業者について

  現状は、業者への「丸投げ」と批判されても仕方がない状況と言えます。区は、「委託する会社は、学校給食を深く理解し、学校給食調理業務の経験が豊かで実績があり」(H.7 あらかわ区報)と説明していましたが、実際には、学校給食の経験が乏しい会社が受託している事例も出てきました。区内のK中学校では、S社が受託した際、栄養職員が調理員に一から教えなければならない状況でした。
  そして、3年ごとの入札で、平成17年には別の業者に替わってしまったため「前の会社の調理員には残ってもらいしのいだ」ということです。しかし、その新しい業者とは、品川区で食中毒による契約解除になった会社だったのです。
  そのせいでしょうか、わずか1年で、翌年の平成18年度に「突然に」また別の業者に変更という事態です。契約解除になった業者は、シダックスフ−ドサ−ビスです。葛飾区の高齢者介護施設でノロウィルスによる食中毒のため業務停止処分を受けました。
  平成17年品川区の学校給食を受託する予定でしたが、品川区の説明によると契約解除をシダックスから申し入れたそうです。しかし、同じ年にシダックスは、荒川区内の中学校を受託したのです。他に小学校2校もです。
  区は、業者選定において事前に十分な調査をしていたのでしょうか。あるいは、業務停止処分の対象が「高齢者介護施設」だからと容認したのでしょうか。区の姿勢が問われます。
  しかし、いずれも保護者への説明はありませんでした。こうして、子どもの口に入るものが、誰の手によって作られているのか、本当に安全なのか、見えなくなってきました。
 K中学校のように、わずか5年のうちに受託業者が、特に業務停止処分を受けている業者に受託するなどという問題も含めて3回も替わるなどという状況は厳しく検証し、繰り返されてはならない事態なのです。     
 
4.災害対策について

  委託会社は、「防災という観点からは幅広い対応が期待でき」(H.7 あらかわ区報)るとありましたが、委託会社は、転出入が多いパ−トばかりで正規社員の数が少なく、それもチ−フが区内在住とは限らないわけですから、被災直後に救援活動を始動させることは大変困難なことが予測されます。震災時に初動体制が取れず、死者を多く出している過去の実例をみると、災害対策にたいして委託会社に多くは期待できないことがわかってきました。                           

5.労働環境の悪化について

  区内保護者で調理員に従事している方々は多くいます。その方々の聞き取り調査でわかったことは、「賃金が安い」「チ−フから新人いじめにあった」「問題があるたび給食会社を替わらざるをえないので大変」といった声が多く聞かれました。区内の雇用は生み出されても労働環境は改善されず、「安上がり」のしわ寄せがパ−ト調理員の区民にきているわけです。そして、調理会社を転々とする「パ−ト」が常態化してきているのです。むろん、落ち着く先は、自給850円の区内受託業者の所ではなく、多少遠くても950円の他区の会社へと流出していくわけです。   

6.せっけん洗剤の使用について

  「荒川SOS!学校給食を考える会」では、平成9年区教育委員会から以下のような回答を得ています。洗浄剤として合成洗剤ではなく石鹸を使用することや残菜などの処理をコンポストとして使用するなどを検討するということでした。
  現状はどうでしょうか。委託開始当初は、契約書の中に「食器類の洗剤を除く」とあり区側が用意していたわけですが、現在は受託会社が用意するようになっています。かつて、栄養職員、区営の調理員の努力でせっけんを使用していた学校も、今はすべての学校が合成洗剤あるいは併用になっています。なぜでしょうか。環境にやさしい荒川区の施策が生きてきません。こうして環境教育なども含めての教育としての給食が追求されず、徐々に「受託会社任せ」になってきてしまっているのです。

7.学校給食の安全性と責任について
 
  給食が原因で事故があった場合、区教育委員会は、自ら責任をとるといっていますが、法律的には「求償権」しかありません。まずは、被害者にたいして「責任」をとるが、その後、受託業者に「請求」するというやり方です。
  給食でO157が発生し、死亡する事故も増えています。このような事態で、はたしてこういった責任の取り方でいいのでしょうか。本来、調理した本人に事故の責任がある場合、直接責任を会社がとるべきです。その責任が直接問われるからこそ安全性も保証されるのです。しかし、責任をとるべき受託会社は、区の傘の下、姿を現しません。
  こんなことでは保護者も子どもも安心できないのです。そして、このような「責任の取り方」であることを保護者に説明していないことも問題と言わざるをえません。

8.地元業者から食材を購入する点について
 
  保育園や学校に食材を地元業者が納めることは、地域の活性化につながります。しかし、人件費を削減しなければならない受託業者は、他区の例からみても食材を直轄購入及び冷凍食品などに依存せざるを得なくなってきています。このような事態にならないようにする強制力を持った対策が現状ではとられていません。

(3)に関連して

 フジ産業株式会社長室伏雅永氏は、「(現在の)入札制度の弊害が一部自治体では問題化している。低価格化で給食が向上しないなどがあげられている。低価格実現の委託先ではなく、優良企業だから委託するというケ−スがこれから増える」(日本食糧新聞・平成12年7月31日付)と指摘しています。言葉を変えて言えば、「民間委託は安上がり」という時代が、少なくとも命を預かる業種に関しては、終焉しつつあるということでしょう。
  しかし、一方で、あくまで委託料削減を追求する足立区のように、平成17年に業者が少ない人数で給食を作れるように「献立を複雑にしない」「過分な作業をおこなわない」などの内容で「学校給食調理業務委託契約ガイドライン」を導入した所もあります。ところが、献立が制約されたり、教育の一貫としての給食に影響が出て問題になっています。
  このように、今日の委託とは、給食の質の高さを求めれば「委託料は値上がり」また「消費税が値上がれば委託料も上がる」というのが現実です。そして、低い委託料を追求すれば、足立区のように給食の質を下げざるをえなくなるという状況になってくるのです。
  栄養職員が受託業者の調理員に「手取り足取り」教える、つまり「ホテル料理」とは違う給食のイロハを「税金を使って」教えているという構図においては、しかし、調理員も業者も定着しないのですから、教えた「経験」が「区の財産」として蓄積されません。これではなんのために「税金」を使っているのかわからない。だとすれば、長年、区が自ら誇ってきた区営の給食を維持し、区自ら努力することがより現実的であり、かつ効率もよく、そして安全な給食活動が実現できる近道ということになるのです。